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俺様の名前は風切羽隼という。気軽にハヤブサ様とでも読んでいただければ結構だ。
あー、何故俺様のような将来有望な・・・いや、今は未だ下っ端だけれどこれから絶対に開花するから! 本当だから! ・・・ゴホン、将来有望な警察官がこのような場所で熱弁を振るっているかと言うと、それはまず、あいつの存在から説明しなくてはならない。耳の穴かっぽじって良く聞いとけ。
俺が何故、警察署の中心で巨大な何かの下敷きになって倒れているのかを!
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「ハヤブサー、死ね」
「いきなり呪詛の言葉!? 真面目に傷つくから止めろ!」
このプロローグ開始早々子供の教育に良くないぞエヘ☆ みたいな発言をしたこのショートカットの少女。名前をコルリという。いつもいつも俺にちょっかいをかましてくるこの少女こそが俺のストレスの原因であり、今回俺の不幸の引き金となった奴だ。
コルリはにこにこ笑いながら警察署の廊下を駆け抜けた。廊下は走るんじゃありません。しかし彼女の行く先では大の大人たちが素早く頭を下げて「コルリさん! お早う御座います!」と挨拶する。何故か。答えは単純明快。コルリは警察署の総督なのだ。
「ああ、あのね! ハヤブサ、わたしのお友達が昨日ね」
年恰好18程度の少女が警察署を我が物顔(いや、実際我が物なのだが)で歩いている。
世も末になった、な。
コルリはきらきらした目でこちらを見上げる。不思議な緑色の大きな瞳だった。
「ハヤブサの上に隕石が落ちてくるって」
・・・・・・。
「ハァ!?」
俺は大声で叫んだ。隣を歩いていたおじさんに注意された。コルリは相変わらずからからと笑っているし、残念ながらこいつの『友達』の予言は良く当たるのだ。良い意味でも、悪い意味でも。
「大丈夫さハヤブサァ、てめえの遺骨は拾って海に返してやる!」
「俺海から誕生したわけじゃないんですけど! ふざけんな、どうして俺がてめーらのくだらねー予言に惑わされなきゃなんねーんだ。どっか行け」
「あれぇ、ハヤブサくん、うしろ! 隕石だぜ!」
「バーカ。そんなのに俺が引っかかるわけ――・・・」
慄然とした。恐怖を覚える前に大きな衝撃が俺の体を貫いていた。必死に目を動かしてきゃらきゃら笑う少女の姿(だってまだ笑い声がするのだ、そこにいるのは違いない)を探せば、コルリは俺より10m離れた所で俺を見ていた。彼女の桃色の唇が動く。ほら、いったでしょ、うしろにいんせきって。俺には読唇術の心得があるのでその言葉の意味は理解できたが、彼女の高い声は聞こえなかった。
「あ~あ、痛そうだねハヤブサ。言わんこっちゃ無いねぇ。ねー、ツバメー」
「そうだねぇハヤブサくん、みじめだねー」
そして冒頭に戻る。隕石の下敷きになった俺は自分を見下す2人を睨みつけた。微笑むコルリと、その隣に立つニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている男。
こいつが彼女の『友達』。名前はツバメ。予言じみた変な事を言い、その通りに行動する。
現に、ツバメはコルリに真っ黒になった両手を見せながら、「隕石ここまで持ってくるの大変だったぜー」とか言っている。こいつは天下の警察署の廊下をこんな黒々とした岩と共にここまで来たのだ。アホらし。とは思っても、隕石の下敷きになっている体ではどうにもならない。
ちなみに、こいつとコルリが竹馬の友である事は周知の事実で、だから誰も注意しない。
腐ってる、日本!
「・・・どかせよ」
「無理無理。さっきお前の体に乗せるとき、運ぶのに使ってた梃子折っちゃったんだもん」
「はあぁぁ!?」
「オウそれは残念ねハヤブサー。死ね」
「やめて! この場でそれ言われると冗談に聞こえないから止めて!」
俺の悲痛な叫びに対してあははと笑っている2人。ドSだ。Doesだ!
***
俺は『日記帳』と表紙にでかでかと書かれたノートの1ページ目を見る。真っ白だ。当たり前だ。今からこのノートは、俺の日記帳として機能し始めるのだから。
俺は書き綴っていく。俺の前に突然現れた、あの2人組。そしてこれからも何か現れるんじゃないかと思われる、謎の生命体Xについて。俺は、このノートに漏らさず記録するつもりなのだ。
しかしそれより先に、やらなければならない事がある。それは
「誰か、この隕石どかしてくれねぇ・・・?」
ここから、脱出する事だ。
ファンタスティック・ハードボイルド
(プロローグ これから起きる惨事についての俺の考察とそしてその結果を推察するの巻)
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