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小夜千鳥

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タンバリンを鳴らしてあげる

本当にね。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいや

 

地獄の竜黙示録 4  タンバリンを鳴らしてあげる


 

奈緒美は晴れ上がった瞼を精一杯擦ってみたが、目の前の鏡に映る自分の顔は不細工で、それもまた彼女の涙を誘う一因となった。


彼女はいわば幸福の絶頂なるものにいたのかもしれない。悲しい事など何も無く、それはまあ成績もあまり宜しい方ではないし飛び切りの美人という訳でもなかったけれど楽しい、そう彼女は楽しかったのだ。しかしその世界は今日急に消滅した。何故? 何故わたしから大切なものを奪うの? 奈緒美は泣きじゃくりながら頭を左右に激しく振った。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だわたしはこれで失うの? わたしには非が無いのに? わたしは、なにも、していないのに?


違うと奈緒美は強く頭を振った。私が求めていた世界はこれじゃない。こんな、私からいきなり全てを奪う世界なんて、私のいた世界じゃない。そうだ、この世界は偽物なんだ。誰かがわたしの目の前からいきなり世界をとりかえっこしてしまったのだ。酷い酷い酷い酷いあなたの世界がどれほど醜くたってあなたの世界であることは変わりないんだからわたしのと取り替えないで。早く、わたしの、世界を返しなさいよ!



奈緒美の涙と嗚咽で気持ち悪く濡れて引っくり返った脳内では、ぐるぐるとせわしなく思考が働く。



 

ああもう、さっきから何回目を閉じても、開いても、世界はあなたが取り替えたもののままだわ! 早く返してというのが聞こえないの!? あなたなんてきらいよ、大っ嫌い! あなたこそこの気持ち悪い、反吐みたいな世界でのた打ち回りながら死ぬのにふさわしいのに! なぜ、わたしがこんなところにいなくちゃいけないの?大体わたしもわたし。何であの時目をつぶってしまったのかしら? あの瞬間に世界が取り替えられたのに! なぜそれに気付かなかったの! 気付けば、わたしの世界は、まだわたしの目の前にあった!


ああ、最低、あなたは最低。あなたを見てみたいわ。わたしの世界を奪い去っていったあなたはどんなに醜い顔をしているのでしょうね? だってあなたの見せる世界はいまだかつて無かったほどに醜く恐ろしいんだもの。自分の嫌なものを他人のいいものと交換したがったのね? でもこの世界はわたしのもの。返しなさいよ、早く!わたしも最低。ああそうだ、全部最低。あなたも、わたしも、あなたがわたしのものと取り替えた世界も、わたしのものだった世界も、みんな汚かった。汚れていて、暗かった。もういいわ、おしまいにしましょう。世界も、あなたも、わたしも、みんな滅べばいい。




 

奈緒美は少し微笑んだ。目の前の鏡に映る自分の姿が、これまででいちばん美しく見えた。


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1992/08/08
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現在乙一氏、道尾氏、桜庭氏を信仰中。
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