ギャグにならなかった王子のおはなし
ではそろそろテスト勉強に頑張ります
王子が柵を越えて外に飛び出した。すかさず私は王子の足首を(失礼ながらも)掴み、勢い良く地面に倒した。しかし王子はこういう無駄な時に限ってめげず、ずりずりとほふく前進を続ける。
「王子! ウェイト!」
「ハッハッハ残念だったな世話係! 今日からおれは晴れて自由の身だぜ!」
だっはっはと下品に豪快に笑い飛ばしつつ王子は軽やかに丘を駆け抜けるが、途中で勢い良くこけた。
「王子! 言わんこっちゃねえな」
「穢れた手で触るなよーもー」
王子はふてくされた顔でぶうぶう非難した。顔は泥まみれでもうこれは泥の国の果てに消えてしまえばいい。というのは冗談にして、王子はよく城を抜け出す。世話係たちの中でこんなに運動するのは私くらいだろう。おかげで足腰は強いんだぜ私。国で4番目に足が速いんだぜ私。
「あーお前の体毛が俺のビロードのマントに付着したー」
「王子王子君は一体私を何だと思ってらっしゃるのですか」
「うーん。珍獣?」
王子ははっとするほど顔は美しいのに、運動神経と頭がからきし駄目で、だから私がいる。王子は水色のくりくりした瞳で私の顔を覗きこんだ。
「ねえ世話係」
「なんでしょうか」
「おれは、外に行きたいよ」
水色の王子の瞳が、青い空を映す。こうしてれば人形のように美しいのに。
「王子、あなたはここにいるべきお方なのですよ」
そう言うと、王子ははぁっと溜息を付いた。
「知ってるけれど、珍獣と一緒じゃ、おれ気が変になるよ」
「結構珍獣ネタは傷つくので止めませんか王子」
王子は、そ、とだけ呟くと、また外を見た。
「ちんじゅう」「世話係ですよ王子」「世話係」「はい?」
「おれは、外に行きたかったんだよ」
叶わない夢だと、そう言うのは何て勇気のいる事なのだろう。臆病者の私は今日もその言葉を言えぬまま、王子の瞳に移る空をただ呆然と見るばかりだった。
「私が王子の寂しさを紛らわさせてあげますよ」
せめてそれが少しでも王子の幸せになれることを願う。私は王子の世話係なのだから。
珍獣と奇妙なダンスを
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