真梨子は震える手で自室のドアを開け、素早く部屋の中に潜り込んだ。ドアを閉じた瞬間、彼女の小柄な体がドアにぴったりくっつき、そのままずるずると滑り落ちた。真梨子の幼さが残る横顔には脂汗がびっしりと浮き、呼吸も荒い。泣きそうな目で部屋を眺めると、真梨子は大きく溜息を付いた。
それは、嘆きにも聞こえた。
地獄の竜黙示録 5 すずめのなみだ
あたしは何てことをしてしまったのだろうか。今ドアに押し付けている背中も、握り締めている手も、がたがた震えていて、みっともない。でもこれが相応。あたしはこの世界を破壊へと導いてしまった張本人なのだから。
何がいけなかったんだろうか。いっぱいありすぎて、分からない。
お昼の時、先輩のパンが売り切れで、隣の店に走りに行った時、男の人に肩がぶつかってしまった事だろうか。それとも、純粋に遅れたからだろうか? 他にも、いっぱい。
あたしのせいだ。あたしのせいだあたしのせいだあたしのせいだあたしのせいだ! 最低最低最低最低あたし、どこかに頭ぶつけて死ねっ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねあたし!
いや違うわ、今いっそ、ここで死んでしまったら? 最も悪の中枢に位置するあたしがここで命を絶てば、この世界は助かるんじゃないのかな? そうだ! きっとそうなんだよ凄いじゃない、いっつも最低なあたし! 最低は最低なりに使い道があるのね!
じゃあ、早速死のう。
どうやって? 悪の処刑は、なるべく残酷に。ヨーロッパの魔女狩りに使われた方法なんてどうかな? 火炙りとか、アイアンメイデンとか。でもそれって第三者がいないとできないことだよね。こんな事にも気付かないあたし馬鹿じゃない? 死ね。
ああ、今から死ぬんだった。
とりあえずキッチンから包丁を引っ張り出してきた。お母さんが昨日研いでいたやつだ。
刃にそっと指を滑らせると、きらりと鋭い銀色の光が手の中で輝いた。綺麗。あたしなんかとは大違い。あたしはその刃をまっすぐに、お腹に突き刺した。痛みが体を貫いた後に、ふっと体が軽くなった。これが死なんだ。意外と楽で幸せ。
あたしはこれで消えました。この世界も元通り清浄なものになりますよね。
穢れは消えて、綺麗なものだけ残る世界。いいなあ、あたしもそこに、行きたかったよ。
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