私は事務椅子からすっかり異形のものへと変化してしまった太く醜い足を投げ出した。目の前に広がるモニターの数は常人が見たら息を詰まらせてしまいそうな量であろう。しかし、“竜”となった私にはこの全てを監視するなど、簡単だった。
地獄の竜黙示録 6 毛虫の毒針は空へ消える
モニターには様々な人間が映っている。自分達が作り出した、整い過ぎた町並みを見て言葉を失う者。世界の崩壊、自分の死、全てを許容し、愛する者と共に逝こうと外界を遮断する者。世界の終焉を嘆き、全てを破壊で埋め尽くそうとする者。自分にも世界にも嫌気が差し、全てに否定的になってしまった者。そして、世界を受容しながらも自分を決して許さず、其の命を散らせてしまった者。全てが儚く、美しい。私はこういう物を見たかったのだ。モニターを眺めながら、私はアールグレイの紅茶を一口飲んだ。
確かに、何の前触れも無く、本日中に世界が消えて無くなると知ったら、誰でも苦しむだろう。しかし、こうする他世界に道は無かったのである。出来れば私もこのまま永久無辺の世界を作っていたかった。この美しき世界を愛していた。なのに、人間たちは私の期待を裏切った。ただの人形でしかない人間たちが争いや妬みや欲望で、そういった穢れたもので、いっぱいにしていったのだ。美しい美しい私の世界を。もう、世界は、後戻りできない所まで行ってしまった。私は紅茶カップの底に残っているアールグレイの紅茶に自らの、昔の姿とはすっかりかけ離れてしまったおぞましい顔を投影した。心なしか、固い甲棘で覆われた表情すら読み取れない私の顔もやつれている様に思える。しかしなんとまあ、今このモニターに映る人々を眺め給え! 人間は、私が遊びで作り出した人形なのに、こんなに違う考えを持てるようになったのだ。それは、素晴らしい事だと思う。でもやはり、今度は人間などいない平和な世を作ろう。誰も、生きる為以外に、自らの欲望で他のものを殺したりしない世を作ろう。嗚呼、何と綺麗な世だろうか!
私は立ち上がった。窮屈な椅子から大きく突出した膝関節をまっすぐに伸ばすと、大きく大きく間取られた部屋の天井近くまで積んである、一番下から百二十六段目のモニターを眺められるようになった。無論、元より私には見えている。
目の前のモニター内に映る人間が、全員はっと息を呑み、私の――正確に言うならばモニター越しの私の――目を見つめた。私は微笑んで、両腕を少しだけ持ち上げた。
「皆様、皆様、世界が滅亡するまであと僅かですね。それまでの間、もう少し辛抱願います。そうですね、では、この騒ぎに巻き込まれて、或いは自らの手で命を絶った、絶たれた者たちに黙祷を――祈りを捧げてやって下さい。さすれば、かの者たちも、もう少しは安らかに昇ることが出来ましょう。どうか、世界に光あれ!」
これから滅び行く者たちよ、これだけは知っておいて欲しい。
私は失敗作となってしまったお前たちを本当は心の底から愛していたのだ。
優等生の一言出たー
ヘイそこのジョニー
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