メモ帳にせっせと打っていたら
そのメモ帳ごと消してしまって「あーーー!!」という作品です。
君の飛沫を、追いかける。
リフレインザワールド
気がつけば、長らく外に出ていなかったらしい。
久々に吸った外気は、排気ガスで恐ろしく汚染されていた。
部屋の中の神聖な空気が恋しい。
人の雑多も、小鳥の囀りも、柔らかな砂地に打ち寄せる波でさえ。
きっと、誰かが見たら、美しいだの、騒がしいだの、めいめい思い思いの事を言うだろう。
でも、その内の誰も、僕の言葉には賛成しないんだろうな。
どんなに美しい景色だと思っていても、汚らわしいものだと思っていても。
これが彼らの生活の中に構成された“日常”の一部だから、誰も、それに疑問を持たない。
僕にとっては、これほど非日常は無いのに、だよ。
僕の日常と呼べる風景の中には、必ず、いたもの。
それが、いないんだ。だから、これは僕の日常ではないんだ。
記憶の断片に巣くう者は、しつこい程に真っ黒な髪をしていた。
陰気だ、そんな印象を跳ね返すくらい、よく笑った。
笑って、目の前にその欠片を零していってしまうから、
それを届けるために懸命に拾って、腕の中に抱え込んだ。
本当に何処でもよく笑ったから、何処にでもその欠片は落ちていて、
それを探して拾うのがとても大変だったことは覚えている。
いつも腕の中には欠片ばかりで、本体に触れたことなんて一度もなかった。
これを全部拾ったら、組み合わさって、君が蘇るかもしれないなんて、
呆れた童話だ。ほんとうにそんなこと、あるわけないのに。
でもなぜか手は止まらなくて、足も止まらなくて、
気がつけば、君の飛沫を、必死に追いかける自分がいる。
でもやっぱり腕の中にあるのは君の欠片だけだから、
君は永遠に構成されない、ね。
(神様、願えるなら、もういちど、会わせてください)
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