小説って久し振り。
今日のこと
・絵をしまえるホルダーを買いました。うはー!
・家に帰ったら母上がお大福を買っていてくれました。うまいな大福はー!
⇒そのうち大福が出てくるお話を書くかも知れねえ
雨がざあざあ、うるさすぎるほどに雨戸を叩いて、俺の集中力をかき乱した。
いい加減止まないものかと外を睨みつける。ただでさえ目つきの悪い俺だから、不機嫌そうにむくれながらぶすっとしている俺の顔はなかなか恐ろしいものだったろう。
目を降ろして、再び活字を追う。
「なに読んでいるんですか?」
目の前に凝った趣向の湯飲みが出されて、俺に質問をした少女は俺の隣に腰を下ろした。
「ん。高瀬舟」
「ああ、森鷗外ですね」
少女は俺の持っている本を横から覗き込む。構わず俺は本を読み進めた。
「あたし、森鷗外ってもっと洋風な作品を書く人だと思ってました」
「ハンナとかいう女が出てきそうな?」
「そうそう」
少女は肩を竦めてくすくす笑った。
外はといえば、雨の止む気配は全く無くて、このままじゃ雨戸が壊れるな、と思う。
俺はまた、文庫に目を落とした。
喜助という男は、罪人を運ぶ船、高瀬舟の中で独白する。
自らの犯した“罪”の内容を。
「あ、虫ですよ!」
またもや集中を乱された俺は、渋々少女を見た。確かに、ぶら下げられた明かりの周りを黒い点が飛び交っている。だがしかし、この古めかしい木造建築には雨戸と障子しか外と中を遮るものが無く、虫なんかが入って来る事は日常茶飯事なのだ。が、今日の、その黒くて小さい虫の点には何故か違和感を覚える。こいつが叫んだのもそれが原因なのだろう。
ああ、と思い至った。今日が雨だからだ。
「雨?」
こちらに時折接近してくる虫と団扇で応戦しながら、少女は間抜けな声を張り上げた。
「雨の日は、ここは封鎖されて、隔離されんだ。外界との繋がりを絶った世界。だからこそ、普段気にも留めない“中に入ってくる外のもの”が異端に見える」
少女は一寸動きを止め、それから納得したように微笑んだ。
「なるほど」
俺はようやく、読書に戻る事ができた。少女は足を投げ出して、今もなお飛び続ける虫と、雨戸の向こうに広がる雨模様をぼんやり見つめている。彼女の何も履いていない足先は、人差し指がいちばん長くて、なかなか整った印象を与えた。
弟は、喜助に殺してくれと頼んだ。彼は、自分がこの家の家計の負担になると思ったのだ。
少女は、いや、もうすぐ18だから、彼女と呼んだほうが相応しいのだろうか。彼女は、俺の背中に自分の背中をぴったりくっつけようとした。しかし、俺の背中の方が幾分広いので、彼女の小さな背中からは俺の体がはみ出していた。彼女はくすりと笑う。
「この世界には、ふたりだけという了見で宜しいですか?」
勿論。
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