以下、この小説の原案
→「だめだよー、生きてるんだよー」で号泣する男
いいかげんである。
俺には守りたい人がいる。そりゃあ誰にでもそんな奴の1人や2人いて当たり前だろうが、この命を捧げたい人、なんてのはざらに見つからねえだろう。それを見つけるとはまあ、俺はなかなか幸運、ラッキーな人間だったと言えよう。
とにもかくにも俺が俺に出した使命は、その人を守り抜く事で、それ以外を俺が生涯の中で行う事は無いだろう。そんなもんはあの人を守ってあの世に逝ってから、また守りたい人を見つけるまでやってりゃあいい事だ。
「やりたいことやってみないと、おもしろくないですよー」
「別に。いまやりてえ事やってるからいい」
午後。雨の後の澄んだ空。ふわふわ、とらえどころの無い風が、洋服の立てられた襟をそよがせた。庭に咲いた花も小さく揺れて、暖かな午後のそれは、誰もが思い描く理想図。しかし俺たちのこれは、戦いの前の、静かな――
「お仕事がやりたい事ですか。ヘッ格好つけたって全然格好よくないもんね!」
「言ってろ」
少し寂しげに微笑んだこいつも、戦いが来ればあの鋭く尖った刃を持ち、戦うのに。そんな現実とは酷く不釣合いな、午後の中で。
「武士道は死ぬ事と見つけたり、だ。生半可な覚悟で戦ってる訳じゃねーんだからな」
「それは美学じゃないんですか」
足元の草から顔を上げて、俺は持っている湯飲みを、ではなく、こいつの顔を見た。お前は掃除が上手だなあと心の中で思う。戦場で、死を告げる烏の様に羽撃くこいつの横顔は、いつも真っ赤な血で染まっているのに、今はその面影すら見当たらなかった。俺は未だに赤に染まった自分の顔を見て笑っちまう。
その血が消えない事に、笑ってしまう。
「・・・あの人は優しすぎるから、あなたが死んだら泣いちゃいますよ」
あはは、とにこやかに笑うこいつの声。あー畜生。
俺は、たったひとりを守るだけで精一杯なのに、もうひとり守りたいと思ってしまった。
みんなで笑ってずっと一緒に、なんて、そんな叶わぬ事を願ってしまった。
欲張りに、なってしまったのだ。
「だめだよー、生きてるんだよー」
「・・・わーってる」
こいつは驚いた顔をして、その後すぐに笑顔になって、服の袖で俺の目を拭った。
それから、自分の目も。
「鬼の目にも涙、ってね」
「なんでてめーまで泣いてんだよ、バーカ」
「もらい泣きですよ」
ぼろぼろぼろぼろ泣いているのに、俺たちはにこにこ笑っていた。
和やかな午後だった。俺はこれから、たくさんのものを一生懸命に、
守り抜きたいと願うのですが、
如何でしょうか、皆様!
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