本当になにひとつ分かっちゃいないんだから・・・
新司には、なぜ久が急にあんなことを言いだしたのか理解できなかった。
久は新司の小学生からの親友であり、勉強もスポーツもできる、ひとことで言えば万能、そんな少年だった。成績は中の下、運動オンチの新司はなんで彼が自分の友達でいてくれるのか、いつも首をひねるばかりだった。
「野球をやろうぜ、新司」
久はにかっと快活に笑って、真新しいボールを新司に投げてよこした。
新司はあわててボールを取った。球はあまり回転していなかったのに、その力たるや凄まじいもので、受け取っただけで新司の右手がじいんと痛んだ。
久は新司がボールを取ったことを確認して、また人なつっこい笑みを浮かべる。
新司は手の中のボールを見つめた。実は、新司は昔地域野球のチームに所属していたのだが、なかなかめざましい活躍をあげられないので辞めたのだ。そのことを非難しているようにボールはつやりと光った。
アスファルトで平らに舗装された道路の隣、草が静かに生い茂る公園。久の投げたボールは大きな弧を描いて、新司のグローブに納まった。
「バッターが見つかるといいんだけどな」
太陽のように屈託のない笑顔で久は笑う。それに少し励まされて、新司は小さく頷いた。
「目指すは甲子園だぜ、新司。やるからにはあそこを狙わねーと」
「行けるかな」
「行くんだよ」
もう夏が迫る公園の、涼しげな木陰からは、すでにセミの声が響いていて、
久のつくりだす放物線は大きく美しく、そのまま彼の目標の地に届いていきそうな――
「久」
久は振り向いた。夜の空には星がたくさん浮かんでいて、あまのがわだ、と久は思った。彼の後ろで、新司は少し微笑む。その顔は闇に隠れてよく見えなかった。
「なんで久は野球やろーと思ったの」
天の川はその偉大さと自らの力を見せ付けるかのごとく、しかしどこか哀しそうに瞬いていた。久は強くボールを握った。そっと振りかぶる。
「だって、野球なら新司と一緒にできるもんな」
久は勢いよく、あまり回転しない球を投げた。
新司のグローブはそのボールをしっかりと受け止めた。
Is it needed with you much together me?
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