今やこの大都市・東京は様々な機関が集結し最先端の技術とダストドームで完璧に保護された地上要塞であった。なにも人間が生きる上で困る事など無く、そう、それは人類の発展の結果と、人間がどれほど弱い存在であるかを記した。
地獄の竜黙示録 1 騙されたガチョウの子供
春は丘を登り終え、そこがある程度見晴らしがきく場所であった事に幾分か安堵した。そして、この建物が整然と並んだ町並みに少し恐怖を覚える。
「きっとこれも、なにもなくなっちまうんだな」
後ろで、直人が呻いた。春は頷く。制服のスカートが小さく靡いた。
地震ではない。火事でもない。ただ、春たちは宣告されたのだ。今まで厚い防御膜に守られていた東京の中心で。大きく朗々と響いた声により。
本日、この世界は崩壊致します。
その後、東京は、世界は、静かに静かに沈黙した。人々の悲鳴も無かった。残されたのは、この無駄に整いすぎた町並みと、魂を抜かれたように静かな人間たちだけ。
いつの間にか、隣に健太が来て、景色を見つめていた。黙ったままだった。
ひとつ。世界は何故滅んで(崩壊して)しまうのか。ふたつ、あの、耳の奥に響いた朗々とした声の正体は一体誰なのか。みっつ、世界が終わってしまったら、自分たちはどうなるのだろうか。
春は丘を降りようとして、小さな川に気が付いた。
排気の水で濁った小さなせせらぎ。その中に、小さく、ふわふわしたものが濡れて沈んでいた。屈み込んで、春はきゅっと眉を顰める。
「どうした?」
気が付けば隣に健太がいて、春の視線の先を見て、元々無表情な顔を固くする。
「・・・・・・水鳥?」
春は頷いた。水鳥の子供が、そこでぷかぷかと浮いていた。
彼らはこの世を過信してしまったのだ。昔の彼らなら、どんな危機が起こっても逃げ切れたに違いない。何故なら彼らは食われる立場だからだ。弱い立場だからだ。
それがいつの間にかこんなに弱くなってしまった。
否、違うかもしれない。普通の災害ならば、彼らは逃げ切っていたかもしれない。
今は、世界の終了なのだ。
水鳥以上にこの世を過信した人間は、どうすればよいのだろう?
春は空を仰いだが、そこに太陽の姿は見当たらなかった。
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