唐突に読みたくなりました。
あれね、昔読んだ時は何とも思わなかったんですが
今は回想しただけで涙が零れます。
今私が間違いなく読んで泣くでしょうランキング
1.100万回生きたねこ
2.陽だまりの詩
3.・・・なんだろう・・・(←ランキングじゃねえ)
(選考外 高瀬舟(弟の台詞に泣ける) / ZOO ギャアアアア!!泣ける!)などなど
「100万回生きたねこを知っていますか?」
唐突に、こいつは聞いてきた。まだ夏と言うには少しぬるくて、でも暑い気候の中で、黒い上着を肩に引っ掛けながら、こいつは聞いてきた。こちらに背を向けて、何かやっていると思ったら、真っ二つに割ったボトル入りのアイスをくれた。こういうものは、暑い日の、暑がりの俺には嬉しい贈り物だった。
「ばーか。100万回も生きた猫がいるわけねえだろ」
「そうじゃありませんよ。本です、絵本」
そこまで言われて、ああ、と俺はようやく思い出した。あったな、そんな絵本。小さいころに読んだ。いい話だと言われるが、どこがそんな『いい話』なのか分からなかった記憶がある。そうだ、あれはどういう粗筋だったか?
「猫が、100万回生き返るんです。100万回死んで、その度に。猫は『俺は100万回生き返った猫なんだぞ』って、自慢するんです。雌猫たちは彼を奪い合う」
「・・・生意気な猫だな」
俺がこう言うと、こいつは肩を少し竦めて笑った。
「でしょう。でもね、猫はある日すっごく綺麗な白い雌猫に出会うんです。猫とその白猫はだんだん仲良くなっていって、子供も生まれる。猫は、100万回生きたのだけれど、その中でいちばん幸せだったんです」
「・・・・・・」
アイスが溶けかかっていたから、そっと口をつけて、液体混じりになった冷たいものを喉に押し込んだ。ひんやりして気持ちよかった。
「それでも、ね。ある日、白猫は死んじゃうんです。猫は泣きました。ずっとずっと泣き続けました。本当に、ずっと。そして、猫も、」
「死ぬ」
こいつの小さな頭がこくりと下を向いて、また上に戻った。俺は何も言えなくなって、ただアイスを吸っていた。甘さが抑えてあるコーヒー味だった。
「ね。すてきなおはなし、でしょう?」
声が震えていた。俺の方へ向けられている小さな背も震えていた。しばらく黙っていたら嗚咽が混じってきたので、俺はそっとこいつの背中を撫でてやった。こいつの手に握られているアイスは、開封されていて、手に、床に、ぽたぽたとコーヒー味のアイスが零れ落ちていた。なるほどな。100万回生きたねこ。最後にひとつ、大切なものを見つけて、そいつの待つ世界へ行ってしまったねこ。
「なあ。俺は100万回生き返ってんだ」
ぽつりと漏らした俺の言葉に、こいつは顔を上げた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔だった。俺は笑って、アイスをこいつの手から奪い取って、食べた。
「でも、きっと、今回で死んじまうな。お前が死んだら、一緒に上に行こうな」
こいつはまた泣いた。涙が小さな顎から落ちて、落ちたアイスの液体と混ざり合った。泣き虫。
でも、アイスは結局俺が全部食べてしまったから、今度こいつに買ってきてやろうと思う。
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