そんなつもりはなかったけれどまるでマリー・アントワネット。
300と400(ありがとうございます!)記念に書かなくっちゃなにかを。
ネタを頑張って考えます。
明るい感じと暗い感じふたつかこう
わたしは、今が幸せすぎて、どうにかなってしまいそうなのです。と、女は言った。
わたしは生まれた時からたくさんの愛情に包まれて、この世の限りの幸せに囲まれて育ってきたのです。それを普段わたしは意識もしないのですが、ふとした瞬間、そうですね、例えば道の脇に咲いている花を見て、つい微笑んでしまった時――そういう時に、ああわたしはしあわせだなぁ、と涙ぐんでしまうのです。こんなに綺麗なものを見て。
女はぽろりと涙を零した。その涙は宝石のようだった。
ねえ、だから、これからは奪われてしまうのだと思うのです。わたしは人よりしあわせになりすぎてしまったのです。だから、しあわせを奪われてしまうのです。
そっとくちびるの間のすきまから言葉を紡いで、女は地面を見た。固い地面にぽつりと咲く、蒲公英を見つけて、微笑んだ。また、宝石が地面に落ちて、吸い込まれた。それから女は空を見た。真っ青な空だった。白くて健康的な雲がいくつか、青の中に浮かんでいた。わたしは雲がある方がすきなのです、と女は言った。ああ今日はいい日ですね。わたしはほんとうにしあわせなのですね。
微笑む女の横顔は幸せそうで、彼女が本当に自分が世界で最も幸福だと思っている事を思わせた。
ぼくはかなしいのだ。と、男は言った。
理由は無いけれど哀しいのだ。いや、恐らく理由はあるのだろう。ぼくはかわいそうだ。どこでも、不意にその思いが込み上げてくる。本当に、僕は哀れなのだと。ぼくは美しいものを見ても歪んだものにしか見えない。目がおかしくなってしまったのだ。美しいものを認められない、美しいものと汚らわしいものとの区別がつかない、目に、なってしまったのだ。
男は俯き、泣いた。涙は全て、彼の腕に落ちた。
ぼくは生まれてからこの方奪われる事ばかりだったのだ。おかしくなってしまった。おかしく、なってしまったのだよ。
ぼくが生きるためには、他人から、いいもの、美しいもの、
しあわせなものを、奪わねば、なるまい。そうではないだろうか?
男は溜息をついた。地面に懸命に咲く蒲公英を見て、顔を顰めて、空を仰いで、その広さと、優しく浮かぶ雲に、また顔を顰めた。ぼくはね、うつくしいものと悠久のものが嫌いなのだよ。おおらかなものが。空は曇りが良い。本当は空なんて嫌いだけれども、どうせなら曇っているか、そうだね、雲ひとつない空の方が良い。
瞼を下ろした男の頬は痩せこけていて、彼が本当に自分が世界で最も不幸だと思っている事を思わせた。
空は青かった。白い雲が浮かんでいて、それは女の顔に微笑みを浮かばせ、男の顔に悲しみを浮かばせた。
女はふふ、と声に出して笑った。そんな女を、横目で男が見る。何がおかしいんだ、と男が問うと、いえ、わたしはすべてがしわせなのですよ、と女は言った。そして男の落ち窪んだ目を見て、あなたにもしあわせが訪れますように。そう、言った。男はゆっくり瞼を閉じた。女の首が、男の手にした武器によって静かに落ちた。涙は宝石のように。
空は広し、雲は広がりしこの晴天、
彼らの革命は静かに幕を閉じたのであります。
sky is big, and cloud floating.
but their revolution closed a curtain calmly.
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