タイトルごめんなさい(さっそく謝罪)
ほのぼのを狙ってみたりとか・・・できてませんけど。
「大きな犬を飼いましょう」
蒸し暑い昼だった。柔らかな黒髪を揺らして笑う彼女の白い肌に、太陽の光が反射して綺麗だった。新しく建てたばかりのこの家にはまだ木の香りが漂っていて、家の周りに覆い茂る青々とした森といっしょになったような、涼しい風を纏っていた。
「猫じゃあ駄目か」
俺は紅茶のカップから口を離した。紅茶は彼女のオリジナルだった。「あたしスペシャルですよー!」と元気に言いながら紅茶を零さんばかりの勢いで駆け寄ってきた彼女はそれこそ犬のようだった。犬もいいとは思うが、俺は猫が好きだった。
「猫は、駄目です」
彼女は少し辛そうな顔をした。俺は少し不思議に思った。彼女は猫も大好きだったから、飼うのは駄目! と言われてびっくりしたのだ。
「どうしてだ?」
俺の手に握られているカップの中にある紅茶の甘い香りが踊った。それは靡く風に葉を打ち鳴らす森の優しい自然のにおいと手をつなぎ、ふうっと溜息をついてしまいそうな柔らかい雰囲気を作り出していた。
彼女は俯き加減だった顔を上げた。澄んだ目に俺の顔が映ったような気がした。
「猫は、いなくなってしまうから、駄目です」
俺は少し驚いた。猫がいなくなる? 何故? 俺の気持ちを読み取ったかのように、彼女はふわりと微笑んだ。
「昔、猫を飼っていたんです。長い、白い毛の猫でした。ずっといっしょだと思っていたんです。でも、突然、いなくなっちゃったんです」
本当に突然。そう彼女は言葉を結び、自分のカップに口をつけた。甘い香りがした。
「生き物ってね、自分の死期が近づくと、誰の目にも届かないどこかに行っちゃうみたいなんです。うちの子も多分そうだったんですよ。もうおばあちゃんだったから」
蒸し暑い昼だった。この森に囲まれた真新しい家の側、大きな木の木陰でそう思うのなら、都心ではもっともっと暑いのだろう。森の奥から、鳥のさえずりが聞こえてきた。
「次は、猫を飼おう」
俺がそう言えば、彼女は驚いたみたいだった。目を見開いて、俺の顔を見る。彼女の瞳に俺の姿が映っているのが本当に分かった。
「大丈夫だ。今度の猫はきっと、どこにも行ったりしないから」
できるかぎり優しく、俺はそう言葉を紡いだ。涼しい風がひとつ吹いて、窓際に吊るしてある風鈴を揺らした。風鈴がりん、と綺麗な音で鳴いた。
「・・・・・・そうですね、素敵な猫を飼いましょう。長くて、白い毛の」
彼女は優しく微笑んだ。俺も笑い返した。この世界はきれいなせかいだ。緑色の森に囲まれた木の香りがする家。鳥のさえずり。彼女の笑顔。この世界に長くて白い毛の猫はとても似合っていた。猫を飼おう。長くて白い毛の。そしてずっと一緒に幸せに暮らそう。
森を吹きぬける風は、とても優しく笑いました
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