忍者ブログ

小夜千鳥

イラスト・小説・その他諸々全て気まぐれに更新。 ゆるーく見守っていただければ嬉しいです。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

この部屋にはひとつの物語があります

ほのぼのから光速で遠ざかっている内容です。
頑張ってMEAT BALLさんのものも仕上げねばなあ・・・。

わたしの世界と言えばそうですね、この部屋だけでした。いつも変わらぬこの部屋の中でわたしは起き、食べ、遊び、寝ます。永遠に変わる事無き生活。わたしの部屋にはいつも食べ物や本が置かれていて、それを使って一日を過ごしました。いつも気がついたら増えているこの贈り物はどこから来るのだろうと思い一晩中見張っていた事もありましたが、気がついたら眠ってしまっていたみたいで、既に本と一日分の食べ物が置いてありました。
 
わたしが外を知る術といえば、本だけでした。本が無かったらわたしは人間というものの存在も知らなかったでしょうし、この世界が実はこの部屋だけではないのだという事にも気がつかなかったでしょう。わたしはとにかく本を読みました。朝昼晩、一日中。そうしていてもこの世界には何の不都合もありませんでした。本の世界に出てくるような困難も無ければ、大きな喜びも無し。わたしはいつしか、天から世界を見下ろす神のような気持ちになっていました。だってそうでしょう? 全てのものが遮断された世界で、延々と違う世界の物語を読んでいるのだから。
 
そんなわたしの世界が破壊されたのは本当につい最近の事でした。いつも通りわたしがベッドから起き上がると、部屋の中が昨日とひとつだけ違っていました。部屋の中央にひとつ、大きなものが置かれていました。しかも驚いた事に、それは動くのです。わたしが物珍しさに感嘆の息を漏らすと、それはこちらへ近付いて来ました。もっと驚くべき事に、その姿はわたしと酷く似ていました。それはわたしの手を取り、何か音を出しました。それがどういう意味なのかはわかりませんでした。
彼は人間というものでした。わたしははじめてわたし以外の人間というものを見たのです! 彼はわたしに言葉を教え、外の世界の物語を教えてくれました。わたしは新しく流れ込んでくる情報と嬉しさで脳がはちきれんばかりになってしまいます。彼は深緑色の瞳でわたしを優しく見つめ、姫はうつくしいですねと言います。わたしは、あなたもうつくしいですよと笑います。本当にうつくしい時間でした。あの時が、永遠に続けばいいと思っていたのに。
 
姫、姫、わたくしはもうここを旅立たねばなりません。どうかわたくしを怒らないで下さい。下で戦いが起きているのです。わたくしはたいせつなひとを守るために下に降ります。姫は大丈夫です、ここにいれば必ず。彼は始めて会った時と少しも変わらぬ格好で、わたしに微笑みかけました。わたしはどう言っていいか分からず、ただ、あなたにはたいせつなひとがいるの? と問いました。彼は頷き、はい、命にかけても守り抜きたいひとたちが。と言うと、部屋の正面にある重いドアを開きました。わたしの力では開けられないドア。わたしはまた、ひとりになってしまうのでしょうか? ふと、わたしは気がつきました。わたしは今物語の中にいるのです。物語の中の人たちみたいに、もがき苦しんで涙を流そうとしている。困難なのです。そうでした、わたしは神ではないのでした。物語の中の人間と同じ、煩悩にまみれた存在なのです。ああ、そうでした、神など、思い上がりもいいところです。わたしは、ただの人間です。
 
「あなたは物語の中の人です。大丈夫ですよ、困難の後には必ず、大きな喜びがありますから」
彼はわたしの目に向かって、優しく微笑みました。ああ。わたしはもう少し待たねばなりませんね。彼が言った、その大きな幸福に手が届くまで。ねえ、でもこれだけは教えてください。
「その幸福の先には、あなたがいるのでしょうか?」
彼はまた笑いました。太陽のように暖かな微笑みでした。「必ず」そう言い残すと、彼はドアの向こうへ消えました。わたしの世界は再び部屋の中の孤独のみです。でも今度は大きな喜びが、あの重いドアを開けて、
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

カウンター

プロフィール

HN:
うぐいす
年齢:
32
性別:
女性
誕生日:
1992/08/08
職業:
どうにか大学生
趣味:
読書
自己紹介:
鳥が大好き甘い物大好き。
現在乙一氏、道尾氏、桜庭氏を信仰中。
大正時代を愛しています


主張

兄ィ!! 猫柳きゅーん!!

最新CM

[05/16 Backlinks]
[02/28 ぽっぽとぺっぺの飼い主です]
[04/19 由]
[04/19 MEAT]
[04/15 由]

最新記事

ブログ内検索

本棚

ご意見箱

意見・質問・苦情。 何でも受け付けております。
Powered by SHINOBI.JP





















Copyright © 小夜千鳥 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]