タイトル長いなあ・・・
和訳(みたいなもの)は小説の最後に。
「なぜ人間は人が死んでしまうと泣いてしまうんだろうか」
わたしは顔を上げた。目の前にいたのは人形みたいに顔の整った男の子だった。彼はわたしの知り合いだった。名前はここでは述べない事にしておこう。
「親しい人、心の支えであった人を失った悲しみではないかしら」
わたしがそう言うと、男の子は少し考えるように目を伏せた。長い睫毛が印象に残った。
「じゃあどうして、物語の中の人が死んでも人間は悲しむのだろう」
男の子の色素の薄い瞳がこちらをまっすぐに見すえて、わたしは息ができなくなる。男の子はほんの少し笑った。とても笑顔が綺麗だった。
「ぼくはね、人間ってわがままだと思うんだ。たとえばぼくが死んだとするだろ? ぼくは別にみんなに泣いてほしいなんて思っちゃいないのに、みんな勝手に泣くんだ。勝手にぼくを素敵だったひと、って枠で片付けて、本当はその感傷に浸る自分たちに見とれてるだけなのにね。人が死んで泣くのは嫌いだ。莫迦なんじゃないか、って気分になる。君たちにとって失われた人は心の支えになったかもしれないけれど、悪いけれどぼくから見たら誰も支えになんてなってくれないよ。いい奴だったなあ、失うのは惜しい人だったなあって涙を流すんだ。不可抗力だよ、死はみんなに平等に訪れる。ぼくはまだ、死が怖くて泣く人の方が気持ちが分かるけれど」
「そうかな?」
わたしの言葉に、男の子は驚いたみたいだった。
「わたしは自分が死ぬよりも、大切な人が死ぬ事の方が怖いな。失うのはね、怖いこと。だから一生懸命みんな失うまいとするんじゃない。そういうみじめな生き方がわたしは好きかも」
男の子は俯いて、何かを必死に考えているみたいだった。しばらくして男の子は顔を上げる。神様に愛された証のような綺麗な顔だなあとわたしは思った。
「君は、ぼくが死んだら悲しむの?」
「もちろん」
わたしはにこにこ笑った。男の子のこの世のものとは思えないうつくしい顔が歪んだ。
「ぼくは君が死んでも悲しくないと思う」
「だろうね」
「でも、」
「でも?」
「涙だけは、零れてしまうかもしれないよ」
窓から差し込む柔らかい光が、この世でもっともうつくしい男の子を照らしていた。
大丈夫、このお話は悲しいお話じゃないよ、やさしくてうつくしいおはなしなんだ
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