僕が思うに、あの子は、非常に頭が悪かったんだと思う。
いつでもめそめそ泣いていて、いつでも濡れていて、例えるならば水揚げされて、暫く経った後の、息も絶え絶えになったあの萎れた魚。あれに良く似ていた。
本当に、いつでも泣いている子だった。ろくに水分すら取っていないのに、どこにそんな水を溜め込んでおく場所があるのだろうと、いつも僕は心の中で驚いていた。あの子は何が哀しくて泣いている訳じゃなく、泣いているからあの子は存在する様な子だった。本当に、何も出来なかった。彼の様に重い物を代わって持ってあげられる様な力を持っていなかったし、彼女の様な、どんな時にも屈しない強い意思を持っていなかった。それは、あの子にとって凄く不幸な事だったんじゃないだろうか。いや、そうじゃなくて、どちらかと言えばあの子は何も出来なかったからあの子であった訳であって、もし彼の様に僕に重い岩を投げつけてきたり、彼女の様にどんなに苦痛を与えても僕を殺そうとしたりしていれば、あの子は何てこと無い、僕の目に止まる事なんか有り得なかっただろう。
あの子は良く食べた。何も出来ないくせに。誰も、あの子に対して何も言わなかった。哀れみの言葉も、怒りの目線も無かった。あの子だけは、肌の色がとても白かった。
あの子はこの前死んだあの人に良く似ていた。何にも出来なくて、いつも僕の足手まといで、良く食う奴。透き通る様に白い肌だった。本当に泣いてばかりで、良く僕は君の生きている意味なんて無いよ、何故君が生きているのか分からない、僕は神様は全知全能完璧で何でも知っていて失敗なんて無いと信じていたけれどそうでもないらしい、現に君は神の失敗作だ、何も出来ない君は滅べば良い、とあの人に言った。その度にあの人は顔を歪めてまた泣くのだ。本当に苛立つ人だった。その癖僕に食べ物をくれと懇願する。僕はその度必ずあの人を叩いて、それから余った食べ物をやる。あの人は齧りついた。その姿を見ていると本当に嫌悪が込み上げて来て、あの人が食べている最中でも蹴った。殴った。それでもあの人は食べる事を止めようとしなかった。
あの子は僕に食べ物をねだる、誰も、目をくれない。唯一、僕に食べ物をねだる。
僕は久しぶりに口を開き、久しぶりにこの言葉を言った。君の生きている意味なんて無いよ、何故君が生きているのか分からない、僕は神様は全知全能完璧で何でも知っていて失敗なんて無いと信じていたけれどそうでもないらしい、現に君は神の失敗作だ、何も出来ない君は滅べば良い。すると、あの子は少しだけ哀しそうに笑った。その時、初めてあの子の顔立ちがあの人にとても似て、この世のものとは思えない程美しい事に気がついた。
「失敗作を貴方が愛そうとしてくれた事が、とても、嬉しい」
僕が思うに、あの人は、非常に頭が悪かったんだと思う。
でも、彼の様に単純でもなく、彼女の様に狭くない。あの人は、あの子はとても広い心を持った、複雑な思考回路の素敵な生き物だった。
君の体から流れ出る美しい真紅の血に、僕は頬擦りをした。
Understand,Remember.