皆川博子さんという方がいらっしゃって、その人の分が激しく意味不明で、でも迫力があって、
そんなものを目指しました。多分出来てませんけど!
例えば誰かが不用意に言った言葉が、私のこころをえぐりとるものだとする。
私はこころが痛くなる。時には立ってられなくなるほど、くらくらするものかも。
そんなときに思うことといえば、私のこころを今見てみれば、それはどんな姿をしているか。
もしかしたら、傷だらけなのかもしれないなあ。
そうは思うけれど確かめようがないので到底、想像しかできないのだ。
ところが父親の懇意の医者で、私のこころを見てくださる方がいらっしゃったようで、
私は早速その人に見ていただいた。
「結果ですけれど、」彼は言った。「全くといっていいほど健康できれいな心臓です」
「そうですか」私は言った。「それなら心配いりません。ありがとうございます」
しかし、私はどこかつまらなかった。
せっかくこころを見てもらったのに、こんなに普段から誰かの心で傷ついているのに、
こころが綺麗なままだなんて。
医者に、意味もなく検査を受けに来たのだと思われることが嫌だった。
しかしその後も私のこころは静かに傷を増やしていき、
今では血も流れているのではないかと思うほどになった。
歩くのも億劫になった。血の巡りが悪くなったのか、頭がひどく鈍くなった。
このまま死んでしまうのなら、とヤケで、例の医者の下へ行ったのだが、
「結果ですけれど、」医者の方はにこりと笑い、「とてもきれいで健康的な心臓です」と言った。
「でも、」私は食い下がる。「私のこころはこんなに傷ついているのです。血が吹き出ておらねばおかしいと思うのですが、いかが」
「ふうむ」医者の方はカルテを見た。「これはそういうことだったんですね。あなた、人はどこで『考え』ているか、知っておられますか」
「脳味噌ではございませぬか」
「はい、その通りです――人間の思いは全部そこで生まれるのです。もちろん、感情も」
医者の方は耳元まで裂けてしまうのではないかというほど口を吊り上げて笑った。
「脳味噌の方がですね、血まみれですよ。このままではあなたは死んでしまうでしょうね」
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