空はこの期に及んで途轍もなく青く、不意に、涙が込み上げてきた。
地獄の竜黙示録 7 転倒。
「祈り、ねえ・・・どうせ俺らも死ぬのに何言ってんだか」
直人はぼんやり呟くと、丘の小石を蹴った。それは、先ほどまで無かった、丘のてっぺんに立つ墓石に当たり、そのままどこかへ消えた。水鳥の墓である。
「・・・ねえ、最初俺が転校してきた時、どんな気持ちだった?」
「なにをいきなり。6年も前の事でしょ」
「いーから。知りたい」
春は顎に手を当てた。緩やかな風が丘の上を滑り、全員の髪を掻き回した。
「おばかでドジで運動神経ばっかいい奴、かな」
「俺ってば、扱いひでえ」
直人は腹を抱えて笑ったが、その顔は力が無かった。
「健太は? って、聞いても無駄か」
無口だもんな、と直人が零すと、健太は淡い色素の目をそっと開いた。
「俺は元々無口だったから、誰にも話しかけなかったし、逆に話しかけられなかった。本当は輪に入りたいとか、いつも思ってた。でも無駄だって知ってたから、人に裏切られるのが怖かったから、それに気付かないふりをしてた。お前が俺に話しかけてきてくれたとき、俺はおかしくなるかと思ったよ、嬉しくて。お前は裏表の無い奴だったから、きっとこいつは大丈夫、心を許しても平気だって、そう思った」
直人は驚いたように目を見開き、それから、「どうも」と言って笑った。
「そっかー。あたしもそうかな。直人と、健太。馬鹿正直な奴らだったから、きっとこの二人の側にいればずっと平和だって思った。今言おう。あたしに出会ってくれて、ありがとう」
場違いな言葉だったかもしれない。しかし直人と健太は同じく微笑み、「どういたしまして」と言った。それから丘に転げて笑い合った。今度の笑顔は本物だった。
「あー、俺、今楽しい!」
「俺もだ」
「あたしも」
春はゆっくりと目を閉じた。これから世界がどう滅んで、その後に何が残って、あたしたちはどうなるかなんて知らない。今分かっていることは世界が滅ぶ、それだけなのだから。でもあたしは今後悔していない。直人と健太と出会えて本当に良かった。これだけで、あたしはこの世に悔いを残さず逝けます。どうなっても、この二人と一緒なら、いつまでもへらへら笑って生きていけそうな気がします。ありがとう。全てにありがとう。
三人を、ゆっくり影が覆い始めた。春たちは互いの手をしっかり握った。
この世界は、
地獄の竜黙示
録・完
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